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2006.06.15 (木)

「 節度なき中国に米国も不快 」

『週刊新潮』 '06年6月15日号
日本ルネッサンス 第218回

経団連新会長の御手洗冨士夫氏が極めて真っ当な発言をした。6月1日、大阪での記者会見で、経済同友会が先に小泉純一郎首相の靖国神社参拝に「ノー」を突きつけたことについて問われた折、こう答えた。

「小泉首相は適切に判断して行動している。経団連は過去に(靖国神社に関する見解を)とりまとめたこともないし、これからも予定はない」「国のために命を捧げた人をどんな形で慰霊するかは国民のコンセンサスに基づいて、政治が決めることだ」

氏はさらに「靖国参拝が中国との経済関係で障害になっていることはない。経済交流は順調である」とも述べた。前任者の奥田碩氏は、首相の靖国神社参拝は日中経済交流の妨げになるから控えるべきだと注文をつけ、首相から「商売と政治は別」と言い渡されている。

御手洗氏と奥田氏と、どちらが正しいのか、理想なのか。考えるまでもなく、御手洗氏である。

日中貿易は靖国問題にもかかわらず右肩上がりで推移している。対中輸出は小泉首相誕生の01年には3.8兆円だった。それが02年から05年まで、5兆、6.6兆、8兆、8.8兆円と上昇ラインを描き続けている。輸入も同様で7兆、7.7兆、8.7兆、10.2兆、12兆円と増え続けている。靖国神社参拝が日中経済関係の障害になっている事実はないとの御手洗氏の発言は事実を反映しているのである。

日本の真の再生は、日本が日本であることに、日本人が日本人であることに自信をもてるようになったときに可能だと思うが、03年7月号の『文藝春秋』に御手洗氏は「愛国心なき経済改革は失敗する」との論文を寄稿した。そのなかで、氏は、個々人の誇りの根底に愛国心がなければならないことを説いている。1960年代後半から23年間を米国ですごした氏は70年代の米国の苦境をつぶさに見詰めた。「もはや米国から学ぶものはない」と豪語した日本とは対照的に、当時、双子の赤字と生産力の弱体化に苦しむ米国が、その苦しみのなかから如何にして立ち上がったかを見詰めてきた。81年1月に就任したレーガン大統領が「強いアメリカ」を標榜し、愛国心を説いたこと、同時期にサッチャー英首相も「大英帝国の威信を説い」たことを氏は強調する。米英両国の再生はそこから始まったと言っているのだ。

愛国心の真の意味とは

だからこそ、確信を持って氏は語る。
「家族を思い、友人を思い、会社を思い、共同体を思う心の延長線上に、国を愛する心がある」と。そして嘆いている。「レーガンもサッチャーも、(中略)愛国心を説いたのだ。ところが日本では経済改革を唱える経済学者も、そして政治家もこの点をまったく重視していない」と。

愛国心なき国に真の再生はないのである。家族、友人、共同体、国を思う心に照らしてみれば、この国に殉じた人々を慰霊するのは当然で、首相が靖国神社参拝を控えるべき理由はどこにもないのである。

奥田氏の姿勢に訣別する御手洗氏の発言の意味は深く大きい。戦後、ひたすら経済成長のみを目標として走ってきた日本のエンジンとしての財界が、日中摩擦が取り沙汰されるなかで、敢えて経済一辺倒の商人の道から踏み出したといえる。

国際政治を鋭く洞察する田久保忠衛氏はこの変化を次のように語った。

「カネのためなら何でも譲歩する商人国家から、普通の民主主義国家へ脱皮する歴史的な事態を戦後の日本がついに迎えたということです」

だが、日本では、米国でさえも首相の参拝を懸念しているとの見方がある。ブッシュ政権の周辺は皆、反対だと語る派閥の長もいる。果たしてそうか。日本は未来永劫、経済だけを考える商人国家に甘んじよと、米国も言っているというのか。

5月8日付の産経新聞にはブッシュ政権の東アジア担当国家情報官を務めたR・サター教授のインタビューが掲載された。サター教授は「靖国に象徴される戦争の歴史の問題は日米間ではすでに解決」「米国一般も現在の日中間の靖国問題を重視していない」点などを強調し、中国が靖国参拝に反対するのは中国のナショナリズムゆえだと断じている。「中国の日本の扱いはそもそも偏向しており、長年のその偏向がこの種の対決的な政策につながってきた」とまで語っている。

米ジョージタウン大学の東アジア言語文化学部のケビン・ドーク学部長は日本浪漫派の研究で知られる日本問題の権威だが、ドーク教授も同紙に寄稿し、靖国問題に関して、中国のみならず、米国の論者たちが介入するのは「不適切」だと述べている。にもかかわらず、教授自身が意見を発表したのは、米国の論者たちも“不適切な断定”を下すようになったからだと説明している。

後述するように、優れて日本の文明文化に通じているからこそ、昨今の的外れの議論を聞いて、教授自身、敢えて発言する気持になったということであろう。

中国の皮肉な倒錯

教授は、民主主義の基礎である個人の権利や自由は他者の尊厳への精神的な敬意が前提になるとし、特に、死者に対しては「現世を超えた精神的、精霊的な意味合いをもこめ」て敬意を表することが重要だと説く。

柳田国男氏や江藤淳氏らが説いた日本の文明の根本、つまり、日本文明においては死者の霊魂は存在し続けるのであり、日本人は生者のことだけを考えていればよい民族ではないということ、日本民族は死者との対話、彼らへの想いと敬意のなかで世代を重ねてきた民族であるということを、ドーク教授が美事にとらえ、理解していることを示す記述である。

そうした識見を備えているからこそ、同教授は「挑発的と思われるかもしれないが」と前置きしながらも、「小泉首相に年に一度よりも頻繁に、たとえば毎月でも靖国を参拝することをまじめに提案したい」と言うのである。

上中下で掲載された「靖国参拝の考察」で、抑制の利いた表現ながら、教授は中国の日本批判の矛盾をも美事に突いた。靖国参拝を以て軍国主義や戦争の美化と結びつけるのは「あまりにも皮肉な倒錯」だというのだ。理由は全世界が知っているように、中国こそが「異様」で「大規模」な軍拡を進めている国だからだ。

“A級戦犯”への非難について、「東条英機氏らがたとえどんな悪事を働いたとしても、毛沢東氏が自国民二千万以上を殺したとされることに比べれば軽いだろう」とも書いた。

このように、米国の意見は多様である。ブッシュ政権の周辺や米国の論壇が靖国参拝反対の一色に染まっている事実など、全くない。その間違った情報は、日本でその類のことを言う人々の思い込みか期待値にすぎない。その点を、私たち日本人こそが肝に銘じ、中国の横暴に一ミリたりとも譲ってはならないのだ。

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